螺旋

新型ウィルスに世界中が翻弄され始めた2月のはじめ、実母がここ数日がヤマらしいとの連絡を受けた。母、と言っても私の記憶では2回しか会ったことのないヒトだけど、その連絡が私の元にきた奇跡に何だか感動し、夫の理解もあって、急遽西へ向かった。

手先が器用だった人。

自由が好きだった人。

肺がんを患っても一切の治療を拒否し、煙草をやめなかった人。

初めて会う叔母にあたる人から知らされた断片的な母の情報を紡ぎ合わせても、その存在が私にどうリンクするのか理解できないでいた。

30年ぶりくらいに見たその人は、もう言葉を発することもできなくなっていた。連絡を受ける数日前からずっと眠り続けていたのだというが、私がベッドの傍らに立つと、くわっと目を見開き私の顔を凝視し、何かの言葉を発した。私が来たことを嬉しがって目を開けてくれたんだと叔母は言ってくれたが、今では真意は確認できない。

4月下旬、亡くなったという連絡を受けても、正直なんの感情も沸いてこなかった。

ただ、産んでくれてありがとう、ということだけ。

あなたの中で育まれた私が見ているこの世界は、まんざらでもないからね。