不干斎ハビアン

家事も何もせずにひたすら本を読む元日、ぶらぼー( ̄∀ ̄*)

不干斎ハビアン―神も仏も棄てた宗教者 (新潮選書)

不干斎ハビアン―神も仏も棄てた宗教者 (新潮選書)

キリシタン全盛の戦国末期に、禅僧から改宗しイエズス会の倫理的主体として活躍した不干斎ハビアンについて、浄土真宗の現役僧侶が論考するという、なかなか読み応えのある本。


仏教諸派・神道・道教・儒教を簡明に解説した『妙貞問答』は、日本人による唯一のキリシタン擁護論書。情熱的にキリシタンを擁護し、そのリーダー的存在だったにもかかわらず、突如ハビアンはある修道女と駆け落ちし、棄教してしまい、あまつさえキリシタン取締りに協力するようになり、死の前年に書いた『破堤宇子』では、反キリシタン論を展開する。
著者は、『妙貞問答』と『破堤宇子』とを合わせ「完全版妙貞問答」とし、世界初の本格的比較宗教論書と規定している。
キリスト教と共に伝わった当時最先端の科学知識は貪欲に吸収しつつ、キリスト教に内在する矛盾点は冷静に自己処理し、”良いとこ取り”をして日本流にアレンジしていくという過程は、西洋文明に対する明治人、アメリカ的民主主義に対する戦後人に通じるものがある。
その源流を経て今の大部分の日本人の態度があるとするならば、ハビアンは言わばそのプロトタイプであるといえる。


ハビアンの棄教の原因を、女性関係だとかイエズス会による不当な扱われ方とか、単に軽薄な性格によるものだという説もあるらしいが、棄教以前に反キリシタン思想を抱いていたかもしれないという著者の主張は、私自身は一番納得がいく説だと思った。ハビアンは極めて知的な視野でもって宗教というものに取り組んだのであろう。