ダイヤモンドダスト

ダイヤモンドダスト (文春文庫)

ダイヤモンドダスト (文春文庫)

南木佳士の作品はけっこう読んでいるが、ほとんどが医者としての視点から書いた作品で、臨床医でもある著者の生々しい感覚を感じられる作品ばかりだった。主人公が看護士であるこの「ダイヤモンドダスト」では、より患者側−というか我々に近い目線まで降りてきているような気がする。


実はこの作品は前に読んだことがある。今年の夏休みの課題である読書感想文のために、娘が通う学校が推薦した図書のリストにあったので、古本を購入し数年ぶりに読み返したのだ。ストーリーも細かいディテールも覚えていたのに、まるっきり新鮮な感動があったことに自分でも少々驚いた。多分、脳梗塞による後遺症に苦しむ父や、大腸がんと戦う義母の姿を目の当たりにして、私の人の生死に対する感受性が変化したせいなんだと思う。


南木氏はこの作品を書いた数年後に精神の病を発症する。おそらく彼の繊細な心で夥しい数の死の場面と対峙していくということは、想像を絶する苦痛だったのだと思う。
作品のラストで、老いた父親の最後の夢であった水車が、全てが凍てつく冬の朝に真っ二つに割れてたたずむ荘厳な光景の美しさに思わず息をのんだ。
死に対して鈍感になり得ない彼の感受性が、悲しくもあり美しくもある。