世にも美しい数学入門

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

世にも美しい数学入門 (ちくまプリマー新書)

博士の愛した数式」執筆のための取材で知り合ったという数学者の藤原正彦氏とのトークショーを本にしたもの。


うちには来年大学受験を予定している息子がいる。
小・中学生のときから数学「だけ」は成績が良かったというだけで、理数系の学部を目指してはいるが特にこれが勉強したいとか、この職業に就きたいという明確な目標がなくて困っている。
で、親としてはやっぱり卒業後有利な実学系の学部という方向に考えがちなのだが、この本を読んでみて数学科とかの基礎学問も悪くはないかも、とか、迂闊にも思ってしまった。


この世の中の全て、我々の体から宇宙全体に至るまでに数学というのは実は存在していて、非常に美しいものであると言う。いや、美しくなければ数学ではないと言い切る藤原氏。
人類のために役立つかなんていうことより、圧倒的に美しい数学に、身も心もボロボロになりながらも没頭していくというのが数学者の姿であると。実用的な工学部なんかより数学や哲学や文学が一番えらいと。
私のような凡人は、数学こそ情緒的なものの正反対に位置する最たるものだという概念を持っていたが、かなり芸術に近いスタンスであるのだなと思った。
未だ証明されていない、まさに神のみぞ知る美しい法則に非常に近いところにいる数学者という立場が、とても崇高に思えたりして。


「円を書くと、同じ弧に対する円周角が等しい、なんて、きれいでしょう」
素数というのは、すべての整数の基でありながらなんの統一性もなく気まぐれに出現する、まさに混沌なんです。でもこの混沌のなかに美がある。だからよけいに魅力を感じる」
「たとえばどこかの知的生物がやってきて、『ここの生物の知能はどのくらいだ』と聞く。『フェルマー予想を解いた』とわれわれが言えば、『なるほど。なかなかのもだ』というに決まってる。どこまで数学を築いたかは、人類の栄光みたいなものです。」
ちょっと書き出してみただけでも藤原氏の数学に対する姿勢というか愛みたいなものが感じられると思う。


芸術家たる数学者の姿を引き出した小川洋子氏の感性にも脱帽する。
博士の愛した数式」でもストーリーの要となった"友愛数"のように、両氏の出会いにもなにか美しい法則が隠されているのかも。


なんてね。(w