始祖鳥記

天変地異、大飢饉が襲いかかったうえ、腐敗しきった政治が民衆を容赦なく苦しめた江戸天明期にあって、飛ぶことにひたすら執着し続けた男、幸吉の物語。
というか実話。

時代のヒーローとして民衆の支持を得たり、罪人となり生活していた土地を追われたり、波乱万丈な人生を歩む幸吉だが、ただ彼は己の内にある抗いがたい何かに導かれるまま行動しただけのこと。
紆余曲折を経て、職を変え住処を変え、「飛ぶこと」を忘れかけてた--忘れようとしていた幸吉だったが、胸のうちにくすぶり続けていた、魔物のような情熱は消えることはなかった。

流転の人生の中で出合った、幸吉を理解し庇護しようとする人々の純粋な精神と情熱と聡明さが実に気持ちいい。
(良い人過ぎて深みがないのが欠点だが)

40を過ぎて、ついに滑空に成功するところでこの物語は終わっている。
実際の彼の晩年は謎につつまれているのだそうだ。
世のため人のために尽力したわけでもないのだけど、とことん一つのことにこだわり続けられる、幸吉のような好奇心と探究心の旺盛な人に、私はひどく惹かれてしまう。

オタクの原点かもしれない。