「月給百円」サラリーマン

「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)

「月給百円」のサラリーマン―戦前日本の「平和」な生活 (講談社現代新書)

大正末期から昭和初期にかけての庶民の生活については、一般的に親の世代から聞きかじったかなりミクロな生活の様子と、学校の教科書に載っていたマクロな状況しか知識がないと思う。
この本では、月にいくらくらいの収入があれば都市部で楽に暮らせるのか、衣食住の実際、学校制度と学歴による収入格差、女性の就職状況など、当時の経済や女性雑誌等から様々な階層の庶民の生活についてこと細かく調べられている。


戦前から「お受験」は過熱していたし、大正期のバブルの後も夢から覚めずに借金をしてまでグルメ三昧とか、最近の日本の状況にも通じるところはある。しかし、当時の「格差社会」のすさまじい現実からみると今の「格差」はまだまだ序の口とも思える。
当時の日本の圧倒的多数の貧しい一般庶民は満州事変以降、大陸に現状を打破する突破口を見出したような気分になり、「おいしい」生活をしていた特権階級であるホワイトカラーは現状を維持したいがために政府に対して無口になっていく。結果、戦争に対して暗黙の支持を与えてしまった。
黙っていると戦争はいきなりやってくるよ、と著者はさらっと警告する。
サブタイトルの”戦前日本の「平和」な生活”とは、平和ボケのホワイトカラーのことだったんだ、とここで納得するわけだ。


あとがきにおいて戦前の日本の状況が現在の中国のそれと酷似していると述べている。
大きな社会変動を誘発するのは資産の格差であることが多く、戦後豊かになると急速にナショナリズムが減退したり、バブル崩壊後にナショナリズム感情が強まったのはどうしてなのか、ということを論じないまま日中が相互批判を繰り返しているのは不毛だという。
戦争を語り継ぐのも大事だが、その前の「貧乏」を語り継がないと理解は深まっていかないらしい。