海へ

患者の生死と正面から向き合ってきた医師が、シビアな医療現場の中で苦悩し、精神的な病を発病する。
大学時代の友人が営む海辺の医院を訪れた日々の中で、自分以外にも心の中の刃の上でもがき苦しむ人がいることを知る。
で、病が完治するとか、明らかに明るい未来へ一歩踏み出すとか、劇的なエンディングはない。
なぜなら、これは完璧に医者と小説家の2足の草鞋を履く南木氏の私小説であるから。


感受性豊かな友人の娘、千絵ちゃんとの会話の中で、
「文章ってのはその人の考えがそのまま外に表現されたものだから、分かりやすいってのは、それだけ単純な思考しかできない脳の持ち主ってことだよ。そればかりの脳だってことを確認して開き直ってるところはあるよね。おじさんたちの歳になると背伸びするのは疲れちゃうから、おれはこんなに小さいんだぜって、やけっぱちで宣言しちゃうんだ。それだって、自分の居場所を確保するための手段ではあるけどね。」
ってのがあって、ここんところが一番リアルだな、と思ったりした。

あと、「医学生」を読んだときにも思ったことだが、性的なものにこだわる…というか、男性としての機能にこだわるという思考って、男性特有のものだな、と。(あたりまえだけど)

私はココロの病とは無縁だと思って生きてきているが、いつか不安とか苦悩とかいうものが、処理するところのキャパを超えてしまって、表面に出てくるとも限らないな、と思った。
ていうか、いっそのこと壊れてしまいたい欲望に駆られるのはなんかの予兆なんかもな、なんて。
脆く繊細な精神を水平に保っていることの方が、案外キツいことなのかもしれない。